「魔法の言葉って知ってる?」
「魔法の言葉?何それ?」
○○くんのお母さんは言いました。
「それは嫌なことがあった時、『ありがとう』って言うの。」
「『ありがとう』が魔法の言葉なわけないじゃん!そんなのみんな言ってるし、それが本当だったらみんな魔法使いになってるじゃん!」
○○くんはバカにしたように言いました。
「違うのよ○○。みんな言えてないの。言えてないから自分のことが嫌いになったり怒ってばっかりな人がたくさんいるの。」
「『ありがとう』ってさ、悪くない言葉だよね。」
ブランコで遊びながら○○くんが言いました。
「急にどうしたの?」
「○○って、自分のお父さんがお母さんに対して『ありがとう』って言ってるところ見たことある?」
「え?」
「おれ、お父さんが『どうもありがとう』って言ってる所見たことないんだ。」
「ふーん。」
「だからなのかな、おれのお父さんいつも怒ってばっかりなんだ。」
「・・・。」
「『ありがとう』って言うの、案外難しいのかもな。おれだって、考えてみたら『ありがとう』って言葉あんまり言ってねえし。出てくるのはケンカに使う言葉ばっかりだよ。」
「ちさと先生とかは、いっぱい言ってるよな。『ありがとう』って。」
「えっ、先生が?」
「そ。ちさと先生いつも保育園のみんなに言ってるじゃん。それだけ言ってたら、やっぱり幸せなの?」
○○くんはちさと先生に聞きました。
「幸せかどうかと聞かれたら、幸せかもね。」
「やっぱり?」
「けど、大事なのは嫌なことがあった時に心の中で『ありがとう』って言うことだと先生は思うよ。」
「えっ?どういうこと?」
「例えば、○○くんが転んで、ひざから血が出るほど痛い気持ちになったとき『ありがとう』って言える?」
「うーん、難しいかもしれない。」
「でしょ?先生でも難しいよ。けど幸せになるってそういうことなんだよ?どんなに泣きたくてもどんなに怒りたくても必ず『ありがとう』って言うの。そうすればさ、イヤなことが消えて良いことがでてくるのよ。」
「転んで血が出てるのに?」
「そう。」
「お父さんお母さんが急に死んじゃっても?」
「そう。」
「それってひどくない?」
「ひどいね。」
「やっぱりだめじゃん!」
「いいえ、もしかすると巡り巡って良いことが起こってるのかもしれないよ?」
「例えば?」
「○○くんが優しい人になれるとか。」