「えりか先生、助けて。」
今にも泣きそうな声で呼んだのは○○ちゃん。
「どうしたの○○ちゃん、何か嫌なことでもあったの?」
「私、出来ない。お父さんお母さんが『逆上がり出来るようになるまで家に帰ってくるな。』って。私を保育園に置いて帰っちゃったの。」
そう言う○○ちゃんの目からは涙がポロポロとこぼれ落ちていました。えりか先生は泣いてる○○ちゃんを抱きしめて優しく言いました。
「そうだったの。そう言えばこの前ひかり先生が『逆上がりのテストをします』って言ってたもんね。」
「私一度も鉄棒で遊んだことないし、逆上がりなんて絶対出来ないよ。」
「本当に一度も遊んだことないの?」
「うん。」
「じゃあ、とりあえず鉄棒の所に行ってみようか?玄関にずっと立ってても、逆上がり出来るようにはならないしさ。」
そう言って、えりか先生と○○ちゃんは手を繋ぎながら一緒に鉄棒の所まで歩いて行きました。
「こんなことなら、前から鉄棒で遊んでおけばよかった。逆上がりの練習を○○くんから教えてもらえば良かった。」
「・・・そういえば、保育園で逆上がり出来る子って誰だっけ?」
「えっ、みんな出来るよ。」
「みんな出来るの!?それは、すごい。」
「だけど私だけ出来ないの。だからお父さんお母さんが怒って『○○だけ出来ないのはおかしい!お父さんお母さんは恥ずかしい!』って言ってた。」
「じゃあ○○ちゃんもきっとすぐ出来るようになるよ。」
「無理だよ!だって明日なんだよ!?鉄棒で遊んだことないもん!簡単に『出来る』なんて言わないでよ!」
そう言って、○○ちゃんはまた泣き始めました。
「ごめんね○○ちゃん。けど、えりか先生は○○ちゃんをこのまま一人ぼっちにさせておくわけにはいかないの。『○○ちゃんはどうせ逆上がりも出来ない弱虫なんだ』っていじめてくる悪い奴らを見返さなくちゃいけないの。ねぇ知ってた?」
「○○ちゃんはもう、逆上がりが出来るんだよ。」
「え?」
「本当は出来ないフリしてをしているだけで、逆上がりはもう出来ているんだ。」
「・・・どういうこと?」
「人が出来るようになるまで、一番難しいことって何だと思う?」
「・・・一人でお風呂に入れるようになること?」
「喋れるようになることだよ。『おはようございます!』とか『先生さようなら!』とか、海の向こう側に住んでる人はみんな喋れないんだよ?今えりか先生と○○ちゃんが使ってる日本語は世界でもめちゃくちゃ難しい言葉なんだよ。」
「それが喋れるってのは本当にすごいことなんだよ。保育園の先生になるよりも、好きな人と結婚して赤ちゃんを産むことよりもずっとずっと難しいことなんだよ。それに比べたら○○ちゃんの逆上がりなんてすぐ出来ちゃうよ!さぁこれから言うえりか先生の真似をしてごらん。」
「うん・・・。」
そして、○○ちゃんはえりか先生の言う通り真似をしてみました。